「どんな医師になりたい?」と聞かれて即答できる中学生、高校生の方は少ないのではないでしょうか? 新企画「医師を目指すあなたへ」では、医療関係者へのインタビューを通じて、今の日本の医療現場やイベント等の情報をお伝えしていきます。中学、高校の生徒さんたちが、医師という職業に興味を持つきっかけになったり、医師を目指す人たちが、その思いをより明確にしてくれることを願っています。

第1回は、静岡民医連の杉山さんにお話を伺いました。前・中・後編の3回に分けてお送りします。前編「医師体験へ行こう」では「地域医療」に触れることができる静岡民医連の「1日医師体験」を紹介します。

静岡県民主医療機関連合会(静岡民医連)
学生センター 医学生担当 杉山 大さん

民医連とは
正式名称は全日本民主医療機関連合会で、「無差別・平等の医療と福祉の実現」を理念としている全国組織。静岡における民医連は1978年に結成され、静岡県東部・中部・西部で事業を展開している。

※参考
・全日本民医連(https://www.min-iren.gr.jp/
・静岡民医連(http://min-iren-shizuoka.jp/
・全日本民医連医師臨床研修センター [aequalis(イコリス)](https://aequalis.jp/

現在の仕事内容を教えてください

私は静岡民医連の学生センターで、医学生担当事務として、学生さんの実習受け入れや、研修医の地域医療研修に関わってきました。医師を目指す高校生への支援も重要な役割でして、病院や診療所での「1日医師体験」を企画したり、進路課の先生へ医師の出前講座を提案したりしています。

1日医師体験について、詳しく教えてください

まず職員と一緒に朝会に参加して自己紹介をしていただきます。そして、その時々の条件によってプログラムが変わりますが、基本的な流れとしては、受付から始めます。「もし具合が悪くなって、病院にかかりたい患者さんが、予約なしでやってきたら」などの例を出して、病院の仕組みや医療保険制度について説明していきます。それから院内を見学しながら、処置室(血圧測定や採血を行う部屋)、検査室(血液や尿を調べる部屋)、放射線室(レントゲン、CTの機械がある部屋)、院内薬局などの各部署を回って、そこで働く専門職の役割や機能を説明します。この「多職種体験」で、「チーム医療」を実感してもらえればと考えています。

オリエンテーション(写真提供:静岡民医連)

CTスキャン体験(写真提供:静岡民医連)

デイサービスなどの介護施設の見学では、生徒さんに、利用者さんとのコミュニケーションに挑戦していただいています。普段、高齢者と接する機会のない生徒さんが、一生懸命会話をしています。医療者は、初対面の患者さんとコミュニケーションをとって、情報収集することが必要です。デイサービスは利用者さんにとって生活の場に近く、「〇〇さんという素の顔」を見せていただけます。医療の目的は、生活を支えることですので、患者さんの日常生活の場面を想像することがとても大切です。

生徒さんたちは、「楽しみはなんですか?」という質問をよくしています。「もし生まれかわることができたら何になりたいですか?」という質問をした人もいますよ。利用者さんとの会話の中では、生い立ちや人生経験をお話しいただけるので、私もどんな話が飛び出すのかいつも楽しみにしています。さらに医師を目指す生徒さんへエールを送ってくださる方もいて、モチベーションUPの効果も期待しています。

そしていよいよ診察室の見学です。医師は短時間の診察で要領よく検査指示や薬の処方、療養の指導を行っていきます。生徒さんたちは「患者さんが笑顔になった」「医師がパソコンを見ていないといけない理由が理解できた」など、いろいろなことを発見してくれます。先に紹介した介護施設(生活の場)や、医師以外の専門職の仕事を見ておくことで、医師の役割をより正確に理解してもらえればと考えています。ちなみに、昼食は職員も利用する食堂で一緒に食べていただきます。医師の仕事は患者さん優先なので食事時間も不規則です。一緒に食事できたらとてもラッキーだと思います。

さらに、これは民医連ならではのプログラムなのですが、在宅医療も体験することができます。文字通り、患者さんのご自宅に「こんにちはー、おじゃましまーす」と挨拶し、上がらせていただいて診療を行っています。病院と違うのは、主役は患者さんだということです。家族とのコミニケーションも非常に参考になるのではないでしょうか。ただ、医師が患者さん宅へ訪問するのは、基本的に月1~2回です。その合間の医療や生活支援は、訪問看護師や訪問ヘルパーが担います。1回あたりのサービス提供時間は30分から時には1時間以上になることもあり、それだけ患者さんとの関係が密になるため、身体的、精神的な変化・異常を医師より先に発見する場合が多いです。

訪問診療(写真提供:静岡民医連)

実は、浜松医科大学医学科には、この訪問看護師・訪問ヘルパーに同行する授業があります。静岡民医連でも3つの事業所で受け入れを行っています。必修の授業でなくても、自主的な同行はいつでも歓迎しています。医師を目指す人にこそ、「医師には遠慮して見せない患者さんの素顔」を学生のうちに見てほしいと思います。現場の職員もそういう体験を提供できることを望んでいます。

これらの体験をしていると、あっという間に1日が終わってしまいます。都合により訪問がキャンセルになるなど、時間に余裕ができた場合には、医療ドキュメントのDVDを視聴して感想を伝え合ったりしています。

小規模な医療機関だからこそ体験できることがあるとか

よくぞ聞いてくださいました(笑)。病院には、大きく分けて3つの役割があると思います。一つは、大きな総合病院の医療としてイメージしやすい、救急や積極的な治療という医療です。ほとんどの医師のイメージは、こちらが大きいのではないでしょうか。二つ目は大学病院に代表される研究です。そして三つ目が、私たちの病院の医療である「暮らしを支える医療」です。

地域のかかりつけ医として、利用者さんのなかには10年以上かかってる方も珍しくありませんし、2世代3世代でかかっているご家庭も少なくありません。大きな手術や入院治療の際には総合病院に行きますが、退院してからは戻ってくるという継続性があるんです。こういった医療のことをプライマリ・ケア(身近にあって、なんでも相談にのってくれる総合的な医療)と言います。この「医療の身近さ」を体験できることが、小さな病院や診療所の良いところだと思います。患者さんたちはみんな、自分の家のように感じて通院して来てくれているんです。昔の言い方だと「下駄履きで来られる」ですね。医師に遠慮せず普段着で気軽に相談に来てもらえる場所なんです。

診察室に入って、医師のすぐ横で患者さんのとのやりとりを見ていただいたり、処置室で看護師の隣に座って患者さんとの会話を聞いていただいたりすることも、大きな特徴です。患者さんの会話はすべて個人情報ですので、医師と患者さんとの信頼関係があってこそ、実現可能な体験です。もちろん事前に、患者さんのプライバシーや医療従事者の守秘義務について説明を行っています。医療機関での個人情報保護は法令により大変厳しく定められており、担当者としても細心の注意を払っています。情報漏洩を心配するのであれば「見せない、立ち会わせない」という選択しかありませんが、それでは本当の医療を体験できませんから、続けていきたいですね。幸いなことに、静岡民医連は30年近く現場に高校生を招き入れて、医療体験の歴史を積み重ねてきています。

実際に医師体験に関わった感想をお聞かせください

何よりも、生徒さん一人一人の意欲が素晴らしく、「医師になってほしい」「やってよかった」と感じさせてもらっています。「この人たちと一緒に未来の医療を担いたい」。そう思える生徒さんたちとの出会いが、私たちの活力になっています。

現在、春夏の長期休暇に合わせて実施しており、50名以上の高校生が医師体験に参加しています。うれしい悩みなのですけれど、私たちの医療機関は、病院は三島だけにあって、静岡と浜松は小規模診療所で医師体験を実施しているので、受け入れ人数の都合上、どうしてもお断りするケースが増えてしまっています。半年後に再度案内はさせていただいていますが、実施人数の拡大は今後の検討課題です。できるだけ多くの高校生に体験してもらうために、例えば在宅医療の同行はリピーター(2回目を申し込んだ人)用のプログラムとして区別することも、方向性としては必要だと考えています。(中編へ続く)

中編「医師の仕事を知ろう」
後編「総合診療医とは」

企画/構成/取材:三山 真太郎(教育情報センター)