後編「総合診療医とは」では、引き続き静岡民医連の杉山さんに、総合診療医を取り巻く環境や、役割・意義についてお話を伺いました。

静岡県民主医療機関連合会(静岡民医連)
学生センター 医学生担当 杉山 大さん

 

民医連とは
正式名称は全日本民主医療機関連合会で、「無差別・平等の医療と福祉の実現」を理念としている全国組織。静岡における民医連は1978年に結成され、静岡県東部・中部・西部で事業を展開している。

※参考
・全日本民医連(https://www.min-iren.gr.jp/
・静岡民医連(http://min-iren-shizuoka.jp/
・全日本民医連医師臨床研修センター [aequalis(イコリス)](https://aequalis.jp/

総合診療医について教えてください

はじめに、総合診療医という言葉について説明させてください。日本では総合診療医という名称が選択され、今後さらに定着していくと思います。その由来についても知っていただきたいと思います。

総合診療医の名を一躍有名にしたのは、NHKのテレビ番組「ドクターG」だろうと思います。この番組の冒頭で、「ドクター・ジェネラル」と呼ばれる場面がありましたが、総合診療医のことをジェネラリストと称することもあります。

次に、国際的な名称について触れたいと思います。総合診療医の養成に力を入れている医科大学では、家庭医療学講座の教授が専門医研修プログラムのリーダーを務めているところが多いです。世界的には、家庭医療学という学問分野が確立されており、家庭医という名称も大変ポピュラーです。

では、家庭医の直訳はファミリー・ドクターなのかというとそうではありません。家庭医発祥のイギリスでは、ジェネラル・プラクティショナー(General Practitioner)と呼ばれています。アメリカに渡ってさらに独自に発達して、ファミリー・フィジシャン(Family Physician)もしくはプライマリ・ケア・フィジシャンと呼ばれています。

ここでまた、プライマリ・ケアという用語が出てきましたね。プライマリ・ケアと家庭医療は、大変密接な関係にあるということだと思います。個人的には家庭医という名称がその役割や領域をイメージしやすく親和性があると思うのですけれど、日本では総合診療医という名称に統一することが決まりました。ここでは世界的に家庭医療学というバックグラウンドがあることを、押さえておいていただけたらと思います。

プライマリ・ケア、あるいは総合診療は、医師研修の中で、どのように位置付けられているのでしょうか

日本では、医学部を卒業してから2年間の臨床研修が義務付けられています(一般的に、初期研修と呼ばれています)。実施に当たっては、「臨床研修の基本理念」が定められており、全文は以下の通りです。

医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的な診療能力(態度・技能・知識)を身に付けることのできるものでなければならない

プライマリ・ケアの概念の適切な日本語訳は存在しませんので、なかなか理解しづらいと思いますけれど、幅広い診療能力によって提供が可能になる医療だととらえてください。初期研修のなかでプライマリ・ケアの重要性が指摘されたのは、1978年の厚労省通知にさかのぼります。そこでは、臨床研修においてプライマリ・ケアを修得させる目的を、次のように述べています。

患者やその家族の健康上の問題解決のための幅広い知識と臨床能力を持ち、問題を最も効果的に処理するとともに生活指導のできる臨床医をつくること

さらに具体的な目的として、以下の4点を挙げています。

①最も普通にみられる病気や外傷などの事故の処置ができること
②救急の初期診療ができること
③適切な時期にしかも安全に専門の医師にケースを送りとどけることができること
④病気の予防の措置や指導ならびに生活管理を主とする慢性疾患又は身体に障害を有する者に対し、心身両面の指導ができる臨床医をつくること

これらを習得するための具体的な方策が、内科・小児科・精神科など複数の診療科を順番に回って行う研修方式です。この研修方式は、「総合診療方式」と呼ばれています。

つまり、日本の地域医療を支えるためには、全ての医師が「総合的」な能力を身に着けてください、という通知が出されたというわけです。しかし、これはなかなかすんなりと進まなかったようです。なぜなら、総合診療方式を基本とした医師臨床研修が「必修化」されたのは、1978年の通知から26年も経った2004年からのことでした。日本の医学教育のなかでも、総合診療の理解や定着に向けてまだ紆余曲折の段階にあると言えると思います。

1978年には、医師の側からもプライマリ・ケア学会を発足し、プライマリ・ケアの研鑽を積んできました。この学会は、その後相次いで発足した日本家庭医療学会、日本総合診療医学会と合併し、2010年に日本プライマリ・ケア連合学会として発展しています。学会の歴史からみても分かるように、医療者の世界でもまだ知名度が高いとは言えないのが実態だと思います。例えば、約30万人の医師人口の中で、認定医の人数を比較すると、日本内科学会の認定内科医約85,000人に対して、日本プライマリ・ケア連合学会のプライマリ・ケア認定医はわずか5,000人に過ぎません。

新専門医制度がスタートしましたが、新たに加わった総合診療医の役割について教えてください

一つは、患者さんを訪問する在宅医療です。自ら診療するだけでなく、医療と介護・福祉を結合させて使いこなす役割、コーディネーターとしての役割が求められます。二つ目は、時代の波として超高齢の患者さんに対する診療が中心となってきています。そうすると、複数の疾患を持つことが普通の状態となります。

診察室の日常を再現してみましょう。「前から心臓が弱っているし、お腹にできたガンを手術でとったけど再発が心配で、この頃皮膚がかぶれちゃってねえ、目も見えなくなってきて、物忘れもあるし、気持ちだけは若いんだけどね(笑)。そうそう思い出した、3日前から膝が赤く腫れちゃって痛くって、先生なんとかしてよ。同居の息子とお嫁さんは紅ほっぺの収穫で忙しそうだからタクシーで来たよ」。 さあ、どうしましょう。このような複雑で個別性の高いケースを得意とするのが、総合診療医です。

資料提供:静岡民医連

総合診療医は、現代の日本の医療ニーズに最も適合する医師像ではないかと思います。総合診療の分野で草分け的なある医師は、「日本に今までなかった道」「日本の医療現場のブレークスルー(突破口)」「住民のニーズに合ったより良い医療を創造していく夢と情熱を持てる自由な分野」とまでおっしゃっています。

ただ、日本で総合診療医を育てる歴史はまだ日が浅く、今年4月からスタートする3年目以降の医師が習得する専門医研修プログラム(約7,800人の医師が19領域から専攻を選ぶ)の中で、総合診療の専攻を選択したのはわずか153人に過ぎませんでした。なり手が不足していると言われている小児科(526人)、産婦人科(410人)よりもずっと少ないです。ここ静岡県で、4月から総合診療の研修を専攻したのは2人でした。それだけ医療界では、総合診療医の知名度が低いということでしょう。

※参考:日本専門医機構

20120111厚労省検討会参考人提出資料より

ここからは、直接情報を得られるウェブサイトと合わせてご紹介したいと思います。総合診療医に期待されている分野として、在宅医療が挙げられますが、在宅医療を上手に紹介している漫画が公開されています。小学生対象に薬剤師の仕事を紹介するという内容なのですが、患者の家を訪問する医療者の視点がきめ細かく描かれているので、医師をめざす高校生の方にとっても参考になると思います。全ページWeb上で閲覧できます。第1章、第2章を続けてご覧ください。
『薬剤師のひみつ(電子書籍)』<https://bpub.jp/bookbeyond/item/000405915317>、

総合診療医の役割について、手軽に調べられるサイトとしては『総合診療医という選択』<http://sogoshinryo.jp/>がお薦めです。総合診療の特徴が紹介されており、動画もみることができます。

本格的に総合診療の地平をのぞいてみようという意欲的な方は、「総合診療専門医の6つのコアコンピテンシー推薦図書」<https://www.primary-care.or.jp/book/index.html>をご参照ください。総合診療の第一人者が多数の文献を紹介しています。

ただし、読者の皆さんが総合診療医に憧れているとしても、その研修プログラムは医師になって3年目からの研修で選択するものです。1~2年目の医師は大事な基礎を養う時期です。

専門は早めに決めた方が良いのでしょうか?

「将来どの科の医師になったらいいでしょうか」という質問を高校生から受けることがあります。もちろん、早くに専門を決めて一直線に突き進んでいくという方法もあると思います。しかし、個人的には、早く専門を決めることは、必ずしも重要なことでないと思っています。

実は、医師人口30万人の中で、専門医を持たない医師の方が多数を占めています。専門医の資格を取らずとも、実地で実践を積まれて総合的な医療を習得されてきた先達も多いということです。また、外科や皮膚科、眼科を専攻されたのちに、在宅医療や家庭医療の道に入られた医師もいらっしゃいます。

ですから、まずは色々なことに興味を持って、情報を集めたり、体験してみたりといったことを幅広くやってほしいと思っています。手前味噌になりますが、前編で紹介した静岡民医連の「1日医師体験」もお薦めですよ(笑)。

前編「医師体験へ行こう」
中編「医師の仕事を知ろう」

企画/構成/取材:三山 真太郎(教育情報センター)