中高一貫校という選択 第3回 静岡北

静岡から医師を目指す小学生、幼稚園生の保護者に、中高一貫校という選択肢を検討してほしいとの思いから始まった「中高一貫校という選択」。連載第3回は、静岡県内の私立高校として最初のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校である静岡北中学校・高等学校の山本政治校長にお話を伺いました。


第3回
静岡北中学校・高等学校
山本 政治 校長

静岡北の特徴とは

実際に働いている職員の子どもさんが入学してくるケースや、兄弟姉妹がそろって通われているご家庭が多いことが特徴です。3人通わせている職員もいるほどです。卒業生が子どもさんを入学させてくれるという事例も増えています。

なぜそんなに職員の子どもの入学率が高いかと言うと、一緒に働いている先生方が魅力的だから。本当に尊敬できる先生ばかりです。私が赴任した当時からお世話になっている先輩方もいらっしゃるので、いまだに怒られたりもしますが(笑)。

ですから、対外的にどう伝えれば良いのかは難しいのですが、入学された方には満足してもらっているのではないかと考えています。実は、私の長男と次男も北中に入学しました。私自身、1人の親として、静北(しずきた)のファンでもあります。

SSH指定校という印象が強いですが、どんなきっかけで指定を目指されたのでしょうか

本校の理数科で平成8年から実施していた、「巴川の水質調査」という課題研究活動があります。それを続けていくうちに、もっと精度の高い調査方法を試したいという生徒が出てきたんです。当時は麻機(あさはた)沼周辺を親水公園として作り変え始めたところで、護岸工事などの様子を見て、土木工学の道に進んだ生徒もいます。この公園一帯を市民の憩いの場にしたいと言って、法学部で地方自治を学ぶ方向に進んだ生徒もいました。

生徒たちの良い学びの場になっており、私たちとしても生徒の興味関心を知ることができる大切な場となっていました。なぜなら、この研究活動をきっかけとして、生徒の希望が文系にも理系にも拡がっていくからです。そして、この研究活動を発展させていくためには、どういった方法があるのかなどを検討しました。

そして、第9代の森竹校長がこの研究活動に注目し、継続して行ってきた本校の特色でもある課題研究をもとにSSHを目指そうということを決定されたのです。

SSHの指定を受けて理数科にスーパーサイエンス(SS)コースを設置しました。そして、大学の先生を招いて講義してもらったり、外国の研究者をお呼びしたり、あるいはスーパーカミオカンデ(世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置※)を見に行ったり、試行錯誤しながら多くの取り組みを行ってきました。

私もスーパーカミオカンデに生徒と一緒に入れさせてもらったのですが、最先端の科学技術力やスケールの大きさに感動しました。同時に、そういった最先端の施設への立ち入りが認められるSSH指定校の素晴らしさを実感しました。でも、これも地道に活動を続けてきた生徒や教員の努力があったからこそです。
※参照:スーパーカミオカンデ公式ホームページ

北高がSSHの指定を受けた3年後の平成22年には北中を開校し、SSHのジュニアバージョンとして、今のサイエンススタディゼロ(SSZ)という教育プログラムに取り組みました。身近な風景や出来事を題材に、問題発見力、解決力を育んでいくプログラムなのですが、活動が認められ、2期目からは中高一貫校としてSSH指定となりました。

中高一貫校になったことで、どのような変化を感じていますか?

6年間の教育プログラムの中で、中学時代はすごく大事です。相手に伝えるための言語技術を習ったり、ケースプログラムで科学的な思考力を学んだり、あるいは中学1年時から人前でプレゼンする経験を積んだり、海外の人たちと交流したり、高校受験がないからこそ経験できる機会が数多くあります。

ですから、対人関係の度胸が座っているというか、人懐っこい生徒が多いです。そういった長所を生かし、推薦やAOで合格を勝ち取ってくる生徒も少なくありません。

先日、中学の一期生が教育実習で来ていたのですが、中学説明会に飛び入りで参加し、「北中のいいところは、コンテンツが転がっているところです」と紹介してくれました。「いろいろな経験をして成長してほしい」と考えて機会を提供してきたので、非常にうれしい言葉でした。

また、中高一貫校だと、中1の時点で高3の先輩と交流する機会が生まれます。大学受験を控えている先輩の考え方、自己分析の仕方、部活に取り組む姿勢などから学べることは少なくありません。そういった意味で、中高一貫校の方がいいとおっしゃってくださる保護者の方は増えています。

SSH活動も中1から高3の縦割りで実施しているので、毎年取り組みが進化し、水のノーベル賞ジュニア版と言われている「2019日本ストックホルム青少年水大賞」の大賞受賞につながりました。

高校卒業後の進路が多彩です

大学進学が一つの柱としてありますが、もう一つの柱が、多様な将来の希望に対応できることです。本校には静岡理工科大学グループとして、県内に大学1校と専門学校8校があり、保育科、医療看護系、観光、キャビンアテンダント、本当にさまざまな職種に専門学校で対応しています。

これは本校の特徴であり、強みだと考えています。各専門学校から大学に編入する制度もありますから、いろいろな将来に対応することができます。

柱の一つである、大学進学についての考えをお聞かせください

最も気を付けているのは人としての部分です。ある学年主任の先生は、口癖のように「雑に生きると、結果も雑になる」と言い続けていました。プリントの提出一つとっても、相手に名前が見えるようにと、徹底していました。

だからこそ、年々、大学の合格実績を増やすことができたんだと思います。その先生1人だけの話ではなく、静北の先生方はみなさんそういうタイプです。生徒たちは、合格を勝ち取るだけでなく、人としてもすごく成長していると感じます。

また、先生方は目の前の生徒と精一杯向き合ってくれます。生徒本人と保護者の方の希望に寄り添い、1年生から何度も面談を重ねます。いわゆる、学校の宣伝活動のための進学指導は決してやりたくありません。生徒と保護者の希望に寄り添いながら、最善の進路先を目指せるよう指導しています。その中で、一つでも上を目指してチャレンジしてもらえればと考えています。

北中からの内部進学生に関して言えば、難関大学の合格実績が増えてきています。2018年度、東京大学に現役合格した生徒も内部進学生でした。「どんどん上を目指したい」という生徒に対しても、全力で協力しています。

高大接続や入試改革など、教育を取り巻く環境が大きく変わりつつあります

北中は、10年前の立ち上げ当初から、いわゆる受験勉強に特化した中学校を目指してはいません。学習指導や生活指導等、学校として当り前のこと以外に、私たちなりに考えた教育プログラムを通じて、たくさんのことを生徒たちに経験してもらいたい。そして、生徒たちが潜在的に持っている「なぜ、こうなるんだろう」という不思議に思う気持ちを大事にして、育てていきたいという思いや、6年間側にいたら、どれだけ生徒たちの可能性が伸びるのだろうという楽しみが設立に繋がっています。

過去には、コイルを自作して、プラレールでリニアを走らせた生徒もいました。その生徒は、大学を出てJRに入社し、本物のリニアの研究をしています。

私たちがやってきた課題研究やSSHといった取り組みは、こういった学力プラスアルファの部分を育て、鍛えるものです。ですから、今の入試改革や高大接続の流れに対し、不安に思うことはありません。特に、定員が増えている推薦入試やAO入試では、静北で学んできたことが問われますし、生徒たちが強みを発揮してくれるはずです。

私たちには、生徒の推薦書に書きたい材料が山ほどあります。推薦入試やAO入試に挑戦したいという生徒には対応しています。きっと先生方は、腱鞘炎になろうが、何枚でも喜んで推薦書を書きますよ(笑)。

各先生が書いた推薦書は、学年主任や指導部長が内容を確認し、「これも書いた方がいいんじゃないか」「この子はこういうこともやっていたはずだよ」とかなりの割合で修正をしていきます。担任だけでなく、課題研究やプログラムを通じて、いろいろな先生が、いろいろな生徒のことを知っているからこそ、実現できることです。

昨年から、静岡県内の小中高校生を対象に、研究発表会を主催されています

毎年8月に、「21世紀の中高生による国際科学技術フォーラム(Shizuoka Kita Youth Science Engineering Forum)」を開催しています。頭文字をとって SKYSEF(スカイセフ)と呼んでいるのですが、これは21世紀における持続可能な社会や環境のあり方について議論します。SDGs(持続可能な開発目標※)にも繋がる内容です。生徒たちは、その中で、思慮深く協働しなければなりませんし、英語での議論も必要になります。ですから、少しハードルが高いかもしれません。
※参照:SDGsとは? 外務省ホームページ

そこで、近隣の小中高校生に門戸を広げ、日本語で、文系理系問わず、気になっていることを調べた研究結果を発表してもらえる場を設けました。グランシップで開催したのですが、約20チームが参加してくれました。静岡市内の小学生は、夢のサッカー世界選抜チームを発表していました。いろいろなデータを元に、ポジションごとになぜこの選手が世界一なのかを分析していて面白かったですよ。

自分がやっていること、興味を持って調べたことを伝える場というのは、案外少ないものです。夏休みの課題研究だけで終わってしまうともったいないですよね。

参加してくれた小中学生が静北に来てくれるかと言ったら、そうでもありません(苦笑)。でも、参加してくれた子どもたちが、研究成果を発表するという経験をきっかけに、自分に合った進路を選んでもらえれば、開催した意義はあると思っています。

※参考:静岡北HP